あれから数週間後。秋の午後、空は気持ちよく晴れて、気温は暑くも無く寒くも無く。
でも少し寒くなってきた。そんなある日の音楽室
桜高軽音楽部は今日も平和そうだったのだが……

 ドタドタと廊下を走る音が響く。
そして音楽室のドアが勢い良く開くと

「ごめ〜ん、遅くなっちゃった」

 唯が慌てて音楽室に飛び込んでくる。

 ドラムセットに腰掛けてキックを踏みながらチューニングしていた律が
大慌ての唯に声をかけた。

「おおっ唯、今から練習始めるところだぞ」

「最近なんだかんだで彼と遊んでるみたいですけど。不思議と練習には
遅刻しませんね」

 梓が非難するような眼で唯をじろりと睨む。

「えへへ、やっぱり練習はきちっとしないとね。みんなのおかげで彼ができたんだもん。
迷惑はかけられないよ〜」

 唯が胸を張ってそう答える。

「感心じゃないか。なんだか勉強も頑張ってるみたいだし。彼ができてやる気も
出たみたいだな」

 澪が笑顔でうんうんとうなずきながら唯に近づいていく。
すぐ近くまで来たところでその笑顔が引き攣った。

「ゆっ唯、なんだか栗の葉とチーズが混じったような臭いがするんだけど?」

「えっ? そっそうかな〜?」

 梓が近づいて臭いをかぐ

「あっ本当に少し臭いです」

「まあ。何をしていたんです?」

 紬がゆっくりとした口調でたずねる。

「ナニしてたんだろ?」

 律は呆れ顔だ。唯は笑顔のまま後ずさるとバッグを探って香水を取り出し
身体に振りかけた。

「えへへ、ごめんね。ちょっとしばらくシンちゃんと会えなくなるって言うから」

「そうなのか?」

「うっうん……まあ一日だけなんだけど」

 その返答に一同はもう突っ込む気力も失った。

「えへっこれでどうかな?」

 澪が鼻をひくひくさせて臭いをかぐ
先ほどまでの性臭がほのかに香り、そこに甘い香水の匂いが混ざる。

「うっなんだかすっごいエッチな匂いだな」

「ほんとです。女子高生が出して良い匂いじゃないです」

 梓もその臭いを嗅ぎ顔を赤らめる。

「まあ……あらっ? でも結構素敵な香じゃない?」

「…………」

 いつものことだが。紬の感覚はやっぱり少しずれてるなとその場のみんなが思った。

「ふう……まあしょうがないな。とりあえず練習はじめようぜ」

「は〜い」

 その言葉を合図にみんながセッティングをはじめる。



「準備完了〜」

 唯がいつもの間の抜けたような声をだす。
みんなも準備は良いようでそれぞれが顔を見合わせてうなずいた。

「よしはじめるぞ。ワンッ……ツー……、ワン、ツー、スリー、フォー」

 音楽室がメロディで埋め尽くされる。そこにオーディエンスがいたなら
思わず聞き入ったであろう。

 唯はニッコリとした笑顔を見せながら実に楽しそうにギターを弾いている。
それにつられてみんなが笑顔になる。

 曲の構成に合わせて気分も盛り上がっていく。心地よい時間は瞬く間に過ぎていった。

 そして、ジャーンと鳴らす最後のキメまでばっちりだった。

「良い感じじゃないか〜」

 律は大喜びではしゃいだ。

「律はまたドラム走ってたぞ」

 そう言う澪も演奏の出来には満足しているのだろう。
顔には清々しい笑顔が浮かんでいた。

 喜ぶみんなを黙って見ていた梓がぼそっとつぶやいた。

「リフが違うの? ……」

「んっ? 梓どうした?」

 律が心配そうに梓の顔を覗き込む。

「いや、唯先輩のギターのリフに厚みがあるというか。艶っぽいんです」

「そうか? ちょっと唯、弾いてみてよ」

 澪がそう言うと、唯が軽くうなずいてギターを弾きはじめる。

 濃厚なサウンドの厚み、しっかりとしたリズムそれでいて軽快な指の動き
文句なしにパーフェクトだった。

「うっ!! 確かに厚みがあるというか音が一味違うな」

「そうかな?」

 当の本人ぼけっとしている。どうやら自覚が無いようだ。

「大人になったせいね」

 今まで黙ってお茶をすすっていたさわちゃんがぼそりとつぶやく。

「ええっ!? どういうこと?」

 思わずメンバーの声がハモる。

「昔あるプロミュージシャンから聞いたんだけど、大人の人間と
処女や童貞とは音が違う言ってたわね。唯ちゃんも大人になって艶が出てきたんじゃない?」

「…………」

 一同が沈黙する。

 その沈黙を破ったのは梓の怒りの声だった。

「練習もしてないのにそんなのずるいです。反則です。インチキです。」

「愛の力は無敵なんだよ」

 唯が両手でブイサインを出しながら言った。
その黒タイツに包まれた太ももを白い液体がトロリと流れ落ちる。



「ゆっ唯、脚のとこ、なんか垂れてるぞ」

「あっ。シンちゃんのが垂れてきた」

 梓が真っ赤になって怒りだす。

「こっこんなエッチばかりしてる馬鹿女が、こんなに巧いなんて事、ありえません」

 みんながそれを聞いて思わずクスリと笑って言った。

「じゃあ梓もやってみたらどう?」

「なっなっなっ」

 梓が言葉に詰まる。

「あずにゃん、大好きな人と愛し合うのは信じられないくらい気持ちいいよ」

「そっそうなんですか?」

 思わず興味津津になってしまう梓。

「じゃあ次は梓のお見合いコンテストだな」

「あはは、いいね〜」

 唯が楽しそうに笑う、それにつられてみんが笑い出す。
桜高軽音部は今日もゆる〜く、そして賑やかでした。

END

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