コンテスト当日、音楽室は大盛況であった。

「もう音楽室に入りきらないぞ」

 当日の司会役を買って出た澪が慌てている。

「派手に宣伝するなって言っただろう」

 澪がまるで律が犯人であると決め付けたように叱る。

「そんな派手にしてないぞ、むぎがなんかやったんじゃないか?」

 律も汗を流しながら参加者の確認をしている。

「いえ、私も特になにかやったわけではないですよ〜」

 くあっ、はぁぁ〜〜

 頑張る軽音部の面々を横目に大口を開いてあくびをしているのは
コンテスト開催の言いだしっぺ、さわちゃんだ。

――た〜く……あ〜。なんで自分の恋愛も上手く言ってないってのに、
他人の手助けしなきゃならないんだろ?

 そう考えたところで気が付く。

――あっ言い出したのは私か。

 最初は面白半分でやるつもりだったが。集まった男の数を見たところから
なんともいえない胸のむかつきが起こりやる気がまったくなくなってしまった。

「さわちゃんもぼ〜っとしてないで手伝えよ」

 律が口をとがらせて、さぼっているさわちゃんに言った。

「は〜〜い」

 さわちゃんはやる気の無い声をだして重い腰を上げると、
つまらなさそうな顔をしながら、澪達の手伝いに参加した。



 数分後何とか参加者を音楽室に入れ準備が整う。

 はしゃいでいる軽音部上級生組と、緊張した面持ちで座っている梓。
頬杖をついて目を細めているさわちゃん達が音楽室の片側に一列になって並ぶ。

 その向かい側に男の子たちが集まる形だ。

――は〜……どうせ鼻の下伸ばした、できの悪いやつばっかだと思うけど

――言い出した手前なんとかやらなきゃね。

 あたりを見回すと澪が立ち上がって会場を見回している。
どうやら状況を確かめているようだった。

「さてと……なんとかはじめられそうだな。結構真面目そうな感じのいい男の子
がいっぱいいたぞ」

 上機嫌で胸を張る澪、まるで自分の手柄のような雰囲気だ、
澪の隣の列の右端に座る紬もニコニコ顔だ。

「お〜お〜こりゃぁ唯も隅に置けないね〜すごい人気だわ」

 澪のもう一方の隣は律だ、律も上機嫌で隣の唯を突っついてる。

「えへへへ〜そぉかなぁ?」

 やはり一番機嫌がいいのは唯であった。

 唯の隣のさわちゃんは気だるい気分にうんざりしていた。
どうしてもやる気になれない。

――勢いで変なこと言わなければ良かったな〜

「結構有名な人がちらほらいませんか?」

 黙って参加者を眺めていた紬とは反対側の端っこにいる梓が口を開く。

「ふ〜ん」

 そう言われて軽音部のメンバーは集まった男性陣の顔をしげしげと眺めた。

「おっ!あそこに立ってるのは豊工の野球部のエースだね〜
たしか甲子園行ったことあるはずだよ」

 その律の言葉を聞いてさわちゃんのこめかみにピクッと青筋が一本できる。

「あちらの方はたしかお父様の知り合いの方の息子さんですわ。
たしか大きな商社を経営しているお家だったと思います」

 むかむかが一気に燃え上がる。どうもやる気になれない気持ちの正体が
徐々に明らかになっていく。

「そうだな〜よく見てみると模試とかで良い成績出すやつも顔を揃えているね」

 澪の一言がトドメだった、さわちゃんの心に一気に闇が広がる。

「桜高祭で歌ってたあの子だよ。うわっ生でみるとやっぱり可愛いな」
男子生徒達も実際の唯をみて大喜びしていた。

――こっこんな天然ボケボケ娘の彼氏候補がとんでもない上玉揃いなんてありえないわ。

――なんでもてるのよ、私だって高校の時には軽音部で頑張ってたのよ。

――こっこんな事が、女としての価値が違うとでも言うの?許せん!許せんぞ〜!
 
 そのどす黒い心の炎はゆっくりとだが確実にさわちゃんの心に広がっていった。



 準備が整った会場で男の子達が一人ひとり自己紹介していく、
みな真面目そうな子ばかりで真剣な交際を望んでいる者が大半であった。

「どっどうしよう?みんな良い子だよ。何を基準に選べばいいんだろう?」

 唯はすっかり舞い上がってしまっている。本人もこんなに良い子達が集まるとは
想像していなかったのだろう。

「まあ見た感じ悪そうなやつはいなさそうだな、あとはフィーリングというか。
こう……ビビッと来るやつを選べばいいよ」

「フィーリングか〜……、う〜ん」

 唯が考え込んでいると。

「ちょっと数が多すぎるわね、少しふるいにかけましょう」

 黙ってお茶をすすっていたさわちゃんがポツリとそう言った。

「さわちゃん、ふるいにかけるってどうするのさ?」

 律が不審そうにさわちゃんの顔をのぞきこんだ。

「まあここは人生経験一番の私に任せなさい」

 さわちゃんが得意そうな顔をして唯のほうを見る。

「ふえっ?」

「唯ちゃんじゃぁ、これだけの男から一人を選ぶのは難しいわね。
男としての最低限のマナーが有るかどうか、私が見てあげるから」

「そんなこともできるんだ!! さすがさわちゃん! もてもてなだけはあるね」

 唯が目を輝かせさわちゃんを見つめる。

 さわちゃんが少しだけピクッと動くが
表情は笑顔のままだ。

「ほんとにそんなことできるのか?」

 律がひそひそと澪に耳打ちする。

「ちょっと疑問だけど、少なくとも私達には男なんてわからないぞ」

 二人のひそひそ話を乙女センサーで感知した紬も

「そうですね〜私も男性とお付き合いしたことはないですね〜」
と横から口をはさむ。

「うおっ!きこえたんかい」

 律は思わず椅子から転げ落ちそうになった。

「まっまあとりあえず少し様子を見よう」

 澪の言葉でにうなずき、三人は視線を唯とさわちゃんに戻す。

「まあ見てなさい、それなりにいい男だけに絞り込んであげるわよ。
唯ちゃんは別室で待機してなさい」

「梓ちゃんは唯ちゃんを向こうの突き当たりの元準備室だったところに案内してあげて」

「はっはい、確かに舞い上がった今の先輩に冷静な判断は出来そうにないですね」

「まっ!舞い上がってはいないよぉ〜」

 唯が梓のセリフに口を尖らせて抗議する。

「唯先輩、ほらっ行きましょう」

 それを無視して梓が唯の手を引いて音楽室を出て行く
その足音が遠ざかっていくのを確認してから、すっとさわちゃんが立ち上がった。

「くそ餓鬼どもが真面目ぶりやがって」

 さわちゃんがぼそりと吐き捨てる。

「えっ?!」

 軽音部一同が思わず耳を疑う。

「おう!てめーら要はあのボケボケ娘をハメ倒したいんだろ。
だったらてめーらの持ち物が使い物になるか見てやるよ」
 
 会場にいた全ての人間が固まる。

「ちょちょっとコンテストを台無しにする気なの?ゲフッ」



 抗議の声を上げた澪が手刀一発で床に転がる。
ピクリとも動かないその姿を見て会場にいる全ての人間が恐怖に叩き込まれた。

さわちゃんはゆっくりとメガネを外すと怒鳴りちらすような大声で

「私がお前らのナニを選別する山中さわこだ。
話しかけられたとき以外口を開くな、口でクソたれる前と後に“サー”と言え分かったか、ウジ虫ども!」

 と叫んだ。

「サッ……サーイエッサー」

 戸惑いながらなんとか返事を返す男子一同。

「なんだその声は!!キンタマ落としたか?」

 さわちゃんの鋭い一言が室内に響き渡る。

「サーイエッサー!!」

 全員が直立不動になってしまった。さわちゃんの気迫に完全に飲まれていた。

「貴様ら雌豚どもが私の選別に生き残れたら ...
そいつが彼氏となる ボケボケ娘をハメ倒す腰振りの司祭だ。
その日まではウジ虫だ!地球上で最下等の生命体だ
貴様らは人間ではない、両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない!」

 律がちらりと紬を見る、すると紬も律を見ていた。
二人の目が合う。

 今はおとなしくするしかない。
自然と気持ちが通じ合う。二人はうなずきあってすぐに直立不動に戻った。

「貴様らは厳しい私を嫌う、だが憎めば、それだけ学ぶ
私は厳しいが公平だ。チンポ差別は許さん
短小豚、包茎豚、早漏豚を、私は見下さん
すべて平等に価値がない!」

「私の使命は役立たずを刈り取ることだ チンポの立たない害虫を!
分かったか、ウジ虫ども!」

「サーイエッサー」

「全員服を脱げ、一分以内に勃起させろ」

「サーイエッサー」

 ばたばたと服を脱ぐ音が響き下半身むき出しになった男性陣がならぶ。
直立不動の姿勢のままなんとか手でペニスを立たせようと必死に頑張る姿は
かなり滑稽であった。

「どいつもこいつもイカ臭い、貴様らちゃんと洗ってるのか?」

 カツカツ靴音を立てながら一人一人のナニを見て回る。

「なんだ半立ちばかりか! 今すぐしゃぶりあってケツにファックしろ」

 むちゃくちゃな事をいいながらゆっくり歩いていく
そしてある一人の男子生徒の前で立ち止まった。

「きっきさま〜〜!!!! ファッキン○○二等兵〜」

 さわちゃんの瞳が怪しく輝いた。

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